持つ者と持たざる者、あるいは漫画の紹介

私はこのブログをご覧になればわかる通り聊か理屈っぽい性格ではあるのですが、こと商売においては感覚派、といえば聞こえはいいが、過去のデータ等や値段相場等を鑑みて売り買いすることが大変苦手で、要するに欲しいか欲しくないか・好きか嫌いか、という感情と、その時点での己の懐具合の寒暖という二点によってのみ商いをしている様なところがあり、それは人様に向けて堂々と語る様なことでは無いので、どうにか改善すべく帳面に市場での落札値をメモしたり、取扱ってみたい物の相場を調べて一覧表にしてみたり、と時折思い出した様に小手先の努力をしてはみるのですが、やはり性に合わない為か、生来怠け者の為か、或いはその両方の為か、どうも長続きせず、長続きしないが為に身にも付かず、結局先に上げた抽象的な概念と長期間温まることの少ない財布を頼りにどうにか糊口をしのいでいるわけです。

しかし、それでもそれなりにやっているのだからこの先もイキフンでいけるっしょ、等と思えるほど楽天的な性格では無く、ひどかどの古本屋になる為にはどうすればいいかということは四六時中考えております。

我が業界の一流と称すべき人は、過去の伝記等見ても記憶力に優れた方が多く、「〇〇さんはすごい人で、どこの市会で誰が幾らで落札したかといった情報が全て頭に入っていた」という類の逸話がよく語られます。

しかし私ははっきり言ってこの方面の才能はゼロで、人が何を買おうが知ったこっちゃない様な所が無きにしもあらず、自分が買おうとしている物はどういうものなのか、その支払が出来るのか、ということで頭が一杯なことが多く、またそうでない場合の市は集中力が続かず、早々に帰るか居眠りしているか、という体たらくです。

これでは駄目なのであって、骨董商の用語で「捨て目が利く」という表現がある様に、儲かりそうな物はどんな物であれ貪欲に憶えまくる力が無いと商売人として大成は出来ないそうです。

とはいえとにかく無いものは無いのであるから、別で補う他は無いのであって、持たざる者が持つ者に対抗する為には創意工夫以外にありえない、と教えてくれたのは少年時代に読んだ『俺は鉄兵』(昔から暇さえあれば漫画ばかり読んでいました)。

そこで考えるのですが、創意工夫と不断の(普段の)努力とは切り離せないものの、それをそれならば、と苦も無く続けられるのであれば自分は今頃博士か大臣なのであって、苦を苦と思わない為にどうにか楽しい方法でやりたいわけです。

自分の今やるべきは和本をもっとわかる様になること、その為に相場を覚えることと別の角度で出来ることと言えば、物自体をしっかりと理解するということ。(奇妙と言えば奇妙ですが、何だかわからずに匂いで判断する、ということが我が業界ではよくあることなのです)その為にくずし字の勉強等して、最近は諸先輩方から読んでくれ、と頼まれる機会もままあるのですが、やはりなかなか活字を読む様には読めません。

そこでまた近道を考えるのが悪い癖と言えば悪い癖なのですが、文字そのもので辿るよりも文脈で辿る方が全体の把握には速いということ、そして我々は学者では無く本屋なので、一字一句正確に読む能力よりも概要を間違えず把握することの能力の方が大切なので、その為には慣れること、どっぷりと近世以前の世界に感覚を浸すことが一番自分に合った方法の様に思うのです。

 ***

と、ここまで駄文を長々と重ねてきて何なのですが、要するに最近読んだ漫画の紹介です。

『半蔵の門』小池一夫原作・小島剛夕

(『子連れ狼』で有名なコンビなのですが、私は漫画の『子連れ狼』は未読です。)

これがやたらに面白く、食事中・信号待ち・用便中・入浴中等、少しでも時間があれば貪る様に読んでおります。

服部半蔵(二代)と徳川家康を出会いから描いた作品なのですが、忍者物とはいえ荒唐無稽さも無く、心理描写がとてもいい。絵も劇画タッチながら無駄な線が無く見やすい。小島剛夕白土三平のアシスタント出身らしいです。

登場人物が役職名や幼名で書かれていても解説がなかったり、「忍者」という表現はなく、「素っ破」「竊盗」で一貫しているところもいい。

そして同コンビのこちらも。

『首斬り朝』

江戸後期頃と思われる時代が舞台の、公儀お様し役・山田浅右衛門をモデルにした朝右衛門が主人公の漫画ですが、要するに江戸時代版ゴルゴ13といった作品です。

実父を試し切りにするところから第一話が始まる。

蔭腹を切り、息子が躊躇せず切れる様にする父(先代)

 

とにかくこの数日、寝ても醒めても半蔵正成と朝右衛門のことばかり考えて、実在の彼らをウィキペディアで調べてみたり、題材にした浮世絵が無いか調べてみたり、と仕事に関係のある様な無い様なことばかり考えています。

同コンビの『甲斐の虎 武田信玄』は最後まで信玄がピリッとせず、あまりおもしろくなかったです。

また、私は本宮ひろ志のファンなので『昼まで寝太郎』という漫画も読んだのですが、江戸版サラリーマン金太郎といった感じのいつもの本宮漫画で面白かったです。

仕事中は『石川晶康の日本史史料podcast』というのを聴いているのですが、先日お客さんからうるさいと怒られてしまいました。

歴史の勉強が娯楽に変わる物を日々探しております。
ブログを候文で書こうかなとも思う。